Q01 ロケットと比べると、宇宙エレベーターにはどんな利点があるのでしょうか?
A01 大勢の人や大量の物資を、安全に、しかも安く宇宙に持ち上げることができるようになります。
打ち上げロケットの役割は、積荷【つみに】を宇宙に持ち上げることです。そのためには、地球の重力に逆らって上昇しながら、軌道に乗るために必要な速さを、積荷に与えなければなりません。
しかし、打ち上げロケットには、機体の大きさに対してとても小さい積荷しか、積むことができません。というのも、ロケットは、地面や空気のような機体を支えてくれるもののない真空中でも働かなければなりません。そこで、機体に積んでおいた推進剤【すいしんざい】を後ろに噴射することで、その反動で前に進むわけです。推進剤とは、燃料や酸化剤など、ロケットを推進するために使うもののことです。打ち上げロケットでは、燃料として液体水素やケロシンが、酸化剤として液体酸素が多く使われています。
ロケットを力持ちで速くするには、できるだけたくさんの推進剤を、できるだけ速く噴射しなければなりません。そのためには、大量の推進剤を機体に積み込んでおく必要があります。そうすると、推進剤がまだたくさん残っているうちは、積荷よりも推進剤を推すために推進剤を噴射する、という状況になります。
このため、ロケットには大量の推進剤が積み込まなければならず、機体の大きさに対して小さな積荷しか積むことができなくなってしまうわけです。
また、打ち上げロケットに積まれている推進剤は、危険性の高い物質です。現在の打ち上げロケットでは、推進剤として燃料と酸化剤を積み、これらを化学反応させて発生させた気体を高速に噴射することで、推力を得ています。ロケットエンジンは、空気のない真空中でも働かなければならないので、燃料だけでなく、燃料を燃やすために必要な酸化剤も一緒に積み込まなければなりません。
つまり、打ち上げロケットには、燃えやすい燃料と、燃料を燃やすために必要な酸化剤が、気体の中で隣り合わせに、しかも大量に積んであるわけです。もし漏れ出したりすると、爆発する危険があります。
また、ロケットの推進剤には、毒性のある物質が使われている場合もあります。実際に、打ち上げに失敗した機体が地表に激突して、毒性のある物質が大量に飛び散り、除染をしなければならなくなった事故も発生しています。
さらに、ロケットの打ち上げは、途中でやり直しのできない、一発勝負です。地球周回軌道に乗るには、数分間のうちに秒速8キロメートルほどにまで加速し、一気に高度数百キロメートルまで上昇します。その間、不具合が生じたからといって、途中で立ち止まって対処することはできません。もし、必要な速さと高度が得られなければ、地表に落ちてしまいます。
しかも、打ち上げロケットは、使い捨てです。現在の技術力では、何度も使うことができる再使用型の打ち上げロケットを、経済的に見合う金額では、つくることができません。2011年に退役したスペースシャトルは、一部再使用型の打ち上げロケットでしたが、再打ち上げのための整備にかかる費用がかさんだことが、退役した理由の1つです。高価なロケットを、打ち上げの度に捨てているので、打ち上げ費用は、なかなか安くなりません。
ロケットによる打ち上げの欠点がすべて解消される
その点、宇宙エレベーターが実現すると、これらのロケットによる打ち上げの欠点が解消されます。宇宙エレベーターのクライマーには、機体に危険な推進剤を積まず、機体の外から供給される電力によって、ケーブルを上昇します。推進剤を積まないので、大量の積荷を積むことができるのです。
また、爆発したり、毒性があったりする物質を大量に使うこともないので、安全です。電力を宇宙太陽光発電衛星などから確保することで、安くすることもできます。さらに、宇宙エレベーターのクライマーは、ケーブルにつかまりながら昇降するので、なにか不具合が起きたとしても、途中で立ち止まることができます。落ち着いて対処することができるので、安全です。
それに、宇宙エレベーターのクライマーは、何度も繰り返し使うことができます。機体を使い捨てにしないので、費用を安くすることができます。宇宙エレベーターが実現することで、大勢の人や大量の物資を、安全に、しかも安く宇宙に持ち上げることができるようになるのです。