Q10 どこの国が最初に実現しそうでしょうか。
A10 宇宙エレベーターは国よりも大きな枠組みで建造するのがふさわしいでしょう。
宇宙エレベーターの建造は、はじめから国際協力のもとに建造するのが望ましいでしょう。宇宙エレベーターが完成すると、既存の打ち上げロケットによる宇宙への輸送は衰退しかねません。現在、宇宙エレベーター開発の研究を熱心に進めているのは、アメリカ、ヨーロッパ、そして、日本です。これらの国や地域は、いずれも宇宙機関や宇宙産業を持っています。
宇宙エレベーターが実現すると、それによって宇宙に対する既得権益を失いかねないので、国家プロジェクトとして積極的に建造を進めるのは難しいでしょう。
軍事利用や国威発揚【こくいはつよう】を目的として宇宙エレベーターを建造するのは、無理があります。初期の宇宙開発は、軍事利用や国威発揚と密接な関係にありました。第2次世界大戦後の宇宙開発競争は、冷戦状態のアメリカとソ連によって、弾道ミサイルや偵察衛星といった軍事利用が可能な技術の開発が、宇宙を舞台に競われました。また、独自路線での宇宙開発を進めている中国は、国威発揚が大きな目的ではないかといわれています。
もし、ある1つの国が宇宙エレベーターを完成すると、その国は宇宙への圧倒的な主導権を手に入れることになります。そのようなことが容易に実現するとは思えません。1つの国が軍事利用や国威発揚を目的として宇宙エレベーターを建造しようとするなら、他の国は黙って見てはいないでしょう。
地球上の覇権を宇宙に持ち出すのは賢明ではない 一方、民間企業が宇宙エレベーターを建造するのも難しそうです。このところ、民間企業による宇宙開発が盛んになってきました。NASAは、国際宇宙ステーションへの物資の輸送を民間企業に委託していて、将来的には宇宙飛行士も民間企業によって運ぼうとしています。
弾道飛行による宇宙観光旅行も、始まろうとしています。地球をぐるっと回る周回飛行に対して、地表から打ち上げられた後、弧を描いて再び地表に戻ってくる飛行を弾道飛行といいます。弾道飛行にかかる費用は、周回飛行にかかる費用よりも各段に安いので、いくつかの企業が宇宙観光旅行を計画し、すでに予約を受け付けている企業もあります。
しかし、建造期間の長い宇宙エレベーターでは、どのように資金を確保するかが問題です。建造期間は数十年にもわたると思いますが、その間は宇宙エレベーターはほとんど利益を生みません。ですから民間企業だけによる建造は、将来的にはともかく、当面は難しいでしょう。
地球上の覇権や紛争を宇宙に持ち出すのは、賢明とは思えません。宇宙エレベーターは、人類が本格的に宇宙に進出するためのゲートウェイです。宇宙に広がる人類の活動の象徴としても、宇宙エレベーターは地球上のしがらみを絶ち、人類全体として建造するのがふさわしいのではないでしょうか。(佐藤 実)