Q14 宇宙エレベーターは、法的には、誰が建設できるのですか?
A14 これは、国連宇宙条約の規定をどのように解釈するか、という問題と関わっています。
誰もが考えるのが、どこかの国(日本とか、米国とか)が作るというものです。しかし、国連宇宙条約2条は、宇宙空間領有禁止原則を規定しています。すなわち、天体を含む「宇宙空間」は、国家による領有権の対象とはならないというのです。
この原則は、宇宙エレベーターを、特定国が建設することを禁止していると読めます。なぜなら、宇宙エレベーターは、まさに特定の「宇宙空間」を半恒久的に「占拠」するものだからです。宇宙空間にあっても、各国が建設した施設内部はその国の主権が及びます。
例えば、国際宇宙ステーションの「きぼう」は、わが国が設置したものなので、その内部空間はわが国の主権の版図【はんと】に属します。その結果、例えば、「きぼう」の中で殺人事件が起これば、犯人や被害者の国籍を問わず、わが国刑法に従って処断されることになります。
それと同様に、特定国が宇宙エレベーターを建設すれば、その内部空間には建設国の主権が存在することになります。しかし、これは、一定の宇宙空間を特定国が恒久的に占拠することを意味しますから、真っ向から宇宙空間領有禁止原則に衝突することになるわけです。したがって、どこかの国が宇宙エレベーターを建設することは、法的に不可能と考えます。
次に考えられるのが、民間企業が建設することで、実際、そういう設定のSF小説もあります。しかし、やはり国連宇宙条約違反になると考えられます。その企業が特定国の法によって設置されている場合は、国連宇宙条約6条が規定する国家への責任集中原則に抵触することになります。すなわち、同条は、宇宙開発活動を行うのが政府機関か非政府団体かを問わず、当該活動に伴う国際的責任を国家(宇宙物体の打ち上げ国)に集中させるとしているのです。これを一言で説明すれば、国家にできないことは、その国の民間企業が行うことも禁じているということです。したがって、国家が宇宙エレベーターを建設できない以上、その国の民間企業も建設できないのです。
また、どこの国の企業でもない団体が建設することは、認められるべきではありません。すなわち、民間企業が、自由に営業活動ができる法的根拠は、「営業の自由」という権利を彼らが持っているからです。営業の自由は、私人の自由競争に委【ゆだ】ねれば市場原理に基づいて一般国民に最善の結果を期待しうる場合に認められます。ところが、これまでに述べたように、地球上における宇宙エレベーター建設のための立地条件には、きわめて高度の独占性があります。このように、市場原理が妥当せず、自由競争になじまない事業には、営業の自由を認めるべき前提が存在しないといわざるを得ないのです。国際法的にいえば、そうした企業活動は海賊行為と言えます。
建設できるのは、国際組織以外にあり得ない
この結果、宇宙エレベーターを建設できるのは、国際組織以外にあり得ないと考えています。先に説明した宇宙空間領有禁止原則は、国家のみを名宛人【なあてにん】としており、国際機関は対象とはなっていないからです。そして、国家への責任集中原則は、その例外として、国際機関が宇宙施設を建設する場合を明確に予定しています。
もちろんこれは、宇宙エレベーターの出現を予定して作られた規定ではありません。宇宙利用の実用化が最も早かったのは衛星通信の分野です。そこでは「国際電気通信衛星機構(INTELSAT)」が1962年に国際機構設立条約により設置され、当該活動を実施していたので、これらの規定はそれを想定してのものです。私は、国際宇宙ステーションと同様に、宇宙に到達する能力を有する国々が協定を結び、共同で建設するのが現実的だと考えています。(甲斐 素直)